
天橋立の北側、静かな松並木の奥に一つの古社が鎮座しています。
その名は元伊勢 籠神社(もといせ このじんじゃ)。
「元伊勢」という響きに、ふと足を止めた方も多いのではないでしょうか。
実はこの神社には、伊勢神宮の誕生に関わる知られざる物語と、めったに人の目に触れない国宝の系図が眠り、さらに境内には、剣豪が斬ったという不思議な狛犬まで伝わっているのです。
この記事では、そんな籠神社の秘密を一つずつ解き明かしながら、参拝前に知っておきたい情報をまとめてご紹介します。
歴史好きの方はもちろん、パワースポット巡りが好きな方、御朱印集めをしている方にもきっと発見のある内容です。

籠神社は京都府宮津市、天橋立の北端に位置する神社。丹後国一宮であり、平安時代の延喜式では山陰道で唯一の名神大社に列せられました。
現在の御本殿は、伊勢神宮と同じ神明造で建てられています。「元伊勢」の名の通り、伊勢神宮に祀られる天照大神と豊受大神が、かつてこの地に鎮座していたと伝わります。
社家である海部(あまべ)氏が、今なお宮司を世襲していることも大きな特徴で、一言でいえば、伊勢神宮のルーツをたどれる、日本でも数少ない古社。
ですが、なぜこの小さな港町の神社が「伊勢神宮のふるさと」と呼ばれるようになったのでしょうか。
その答えは、神代から続く一つの物語にあります。

籠神社の奥宮にあたる眞名井原には、神代の昔から豊受大神が祀られていました。その縁により、第十代・崇神天皇の御代に天照大神が大和国笠縫邑からこの地へ遷られます。
天照大神と豊受大神は「吉佐宮(よさのみや)」という宮号で、4年間ともに祀られ、今の伊勢神宮に、内宮と外宮という2つの宮があるのをご存知でしょうか。
その原点が、実はこの丹後の地にあったのです。
天照大神は第十一代・垂仁天皇の御代に伊勢の内宮へ。豊受大神は第二十一代・雄略天皇の御代に伊勢の外宮へ、それぞれ遷られました。
伊勢神宮に鎮座する以前、この地で祀られていたことから「元伊勢」と称されるようになったと伝わります。両大神が伊勢へ遷られた後、養老3年(719年)に本宮を現在の地へ移し、社名を籠宮(このみや)と改めました。
このとき主祭神として迎えられたのが、天孫・彦火明命(ひこほあかりのみこと)。なお、これは籠神社に伝わる社伝・由緒に基づく伝承です。
断定的な史実というより、「伊勢神宮の神々のふるさと」として受け継がれてきた物語として味わってみてください。そしてこの彦火明命こそが、籠神社が今も守り続けるもう一つの謎につながっています。

主祭神は彦火明命(ひこほあかりのみこと)。
別名を天照国照彦火明命(あまてるくにてるひこほあかりのみこと)ともいい、天孫・邇邇藝命(ににぎのみこと、瓊瓊杵尊)の兄弟神とされています。天祖から息津鏡(おきつかがみ)・邊津鏡(へつかがみ、辺津鏡)の二つの鏡を賜り、丹後・丹波地方に養蚕や稲作を広めた開拓神として伝えられています。
相殿には豊受大神、天照大神、海神(わたつみのかみ)、天水分神(あめのみくまりのかみ)が祀られ、伊勢神宮とゆかりの深い神々が一堂に会する、全国でも珍しい神社となっています。
この彦火明命を祖とする一族が、今も籠神社を守り続けています。その一族の名は、海部氏。
彼らが今日まで隠し伝えてきたものこそ、籠神社最大の秘密です。
籠神社の宮司家である海部氏(あまべし)は、彦火明命を始祖とし、古代には丹後国造として、後には籠神社の祝(はふり)としてこの神社に仕えてきた一族です。
その海部氏に伝わる系図が、国宝「海部氏系図」です。1975年に重要文化財、翌1976年6月5日に国宝の指定を受けました。
平安時代に書写された「本系図」は、現存する日本の古系図としては国宝「円珍俗姓系図」に次ぐ古さとされ、竪系図の最も古い形を伝える貴重な資料となっています。
実はこの系図、長い間ほとんど人の目に触れることがありませんでした。一般公開される機会は今もほとんどなく、その希少性そのものが籠神社の格式を物語っていたのです。歴史の教科書には載らない、この土地だけが知る物語。
その続きは、境内を歩きながら感じてみてください。そして、その海部氏が守り続けてきたのは系図だけではありません。
境内には、もう一つ見過ごせない「格式の証」が隠されているのです。
主祭神・彦火明命
養蚕や稲作を広めた開拓神として伝えられており、産業や農業の発展にまつわるご利益が語られています。また、元伊勢としての格式から、開運招福や厄除けのご利益も伝えられています。
断定的な効能ではなく、古くからの伝承として受け止めていただければと思います。
ちなみに、縁結びや夫婦和合を願うなら、少し足を延ばす必要があります。
そのご利益は、奥宮・眞名井神社の相殿神(神代五代神)の御神徳として案内されているからです。
本宮と奥宮、それぞれのご利益を知っておくと、参拝の目的がより明確になりますよ。

神門前の石段脇に、一対の狛犬が静かに座っています。鎌倉時代の作とされ、重要文化財に指定された古い狛犬です。
ですが、この狛犬にはただの文化財という以上の、ある奇妙な伝説が残されています。
かつて、彫刻師の魂が狛犬に宿り、夜な夜な天橋立の松原に出没していたというのです。それを聞きつけた剣豪・岩見重太郎が、ついに狛犬を斬ったと伝えられ、以来、この狛犬は魔除けの狛犬として、参拝者を静かに見守っています。
石段を上るとき、ふとその表情に目を向けてみてください。何百年も前の夜、この狛犬が本当に松原を歩いていたのかもしれませんね。
御本殿の高欄の上には、青・黄・赤・白・黒の五色に彩られた座玉(すえたま)が並んでいます。
何気ない装飾に見えますが、実はこの意匠、伊勢神宮の御正殿と籠神社にしか許されていない、非常に特別なもの。
※参拝の際は、ぜひ高欄に目を向けてみてください。
境内には、自然石によって造られた「御生れの庭」があります。また水琴窟が設けられており、耳を澄ますと澄んだ水音が響き、参拝の合間に、少し立ち止まって耳を傾けてみるのもおすすめです。

籠神社から徒歩約7分の山中に、奥宮である眞名井神社が鎮座しています。
豊受大神が最初に祀られていた、まさに元伊勢の原点ともいえる場所。社殿の裏手には、神が宿るとされる磐座(いわくら)があり、樹々に包まれた静かな空間は、籠神社とはまた違った厳かな空気に満ちています。
籠神社だけを参拝して帰ってしまうと、実は物語の半分しか見ていないことになり、籠神社→眞名井神社の順に巡ることで、本宮から奥宮へという物語の流れをたどることができるのです。
御朱印は授与所にて頂くことができます。
籠神社本宮のみの御朱印と、奥宮・眞名井神社と合わせた元伊勢宮の御朱印の2種類が用意されているとされています。
初穂料など詳細は、授与所にて直接ご確認ください。
授与品も充実しており、次のようなお守りが人気です。
見ているだけでも楽しい授与品の品々、どれを選ぶか、参拝の前に考えておくのも一興ですね。
毎年4月24日には「葵祭」が斎行されます。太刀振りなどの奉納神事が行われ、神々の御生れをにぎやかに祝います。
時期を合わせて訪れると、普段とは違う籠神社の表情に出会えるかもしれません。
最寄り駅は京都丹後鉄道宮豊線の「天橋立駅」です。
路線バスを利用する場合、天橋立駅から約25分、「神社前」バス停で下車します。
観光船を利用する場合は、天橋立桟橋から一の宮桟橋まで約12分、そこから徒歩約5分です。
京都縦貫自動車道の与謝天橋立ICから、車で約15分です。
大阪・神戸方面からは、舞鶴若狭自動車道を経由して与謝天橋立ICを目指してください。
境内には有料駐車場が用意されています。
30分以内の駐車であれば無料です。
30分を超えると、終日700円がかかります。
短時間の参拝であれば、駐車料金を気にせず利用できるのはうれしいポイントですね。
※祈祷や正式参拝をされる方、祭典に参列される方、氏子・奉賛会員の方は無料となります。

籠神社から徒歩圏内には、見どころが数多くあります。
奥宮の眞名井神社はもちろん、天橋立ビューランドや傘松公園からは天橋立の絶景を一望できます。少し足を延ばせば成相寺や智恩寺もあり、天橋立エリアを一日かけてじっくり巡ることができます。
歴史の物語をたどった後は、景色を巡る楽しみも待っています。
籠神社の参道沿いには、地元ならではの味を楽しめるお店が並んおり、中でも名物なのが、籠神社に奉納される赤米を使った「赤米うどん」です。ほんのりと赤く色づいた麺には、自然な甘みがあります。丹後の海の幸を使った丼ものや、金樽イワシを使った丼も人気です。
参拝の後は、ぜひ丹後ならではの味覚も味わってみてください。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名称 | 元伊勢 籠神社(もといせ このじんじゃ) |
| 住所 | 京都府宮津市字大垣430 |
| 電話番号 | 0772-27-0006 |
| 参拝・授与時間 | 7:30〜17:00(12月〜1月は7:30〜16:30) |
| 駐車場 | 境内有料駐車場(30分以内無料、以降終日700円) |
| アクセス | 与謝天橋立ICから車で約15分/天橋立駅からバス約25分(神社前下車) |
天照大神と豊受大神が、伊勢へ遷る前にこの地で祀られていたと伝わることに由来します。
その由緒から、伊勢神宮内宮・外宮の元宮として「元伊勢」と呼ばれています。
境内の参拝そのものに拝観料はかかりません。
駐車場のみ、30分を超えると料金が発生します。
境内の参拝だけであれば30分〜1時間程度が目安です。
奥宮の眞名井神社まで参拝する場合は、往復を含めて1時間半程度を見ておくと安心です
一の鳥居から二の鳥居、楼門までは撮影可能です。
本殿周辺など、一部エリアでは撮影が制限されていますので、掲示に従って参拝してください。
国宝に指定されている貴重な資料のため、一般公開される機会はほとんどありません。
その分、代々受け継がれてきた歴史の重みを感じさせてくれます。
籠神社は、伊勢神宮の前身として語り継がれてきた、格式高い古社です。
国宝の海部氏系図、魔除けの狛犬伝説、伊勢神宮だけが持つ五色の座玉。一つひとつのエピソードが、この神社の長い歴史を物語っています。
天橋立観光の際は、ぜひ籠神社と奥宮の眞名井神社をあわせて訪れてみてください。本宮だけでは見えなかった物語の続きが、そこには待っているはずです。