
奈良県の南東部、吉野川の源流が生まれる川上村。深い山あいの高台に、湖を見下ろして建つ神社があります。
それが龍神総本宮・丹生川上神社上社(にうかわかみじんじゃかみしゃ)です。
ところが、この神社には不思議な過去があります。
かつての境内は今、目の前に広がる湖の底に沈んでいるのです。
しかも、その場所から見つかったのは神社の跡だけではありませんでした。現れたのは、約4,000年前の縄文時代の祭祀跡とみられる石棒です。
なぜ人々は、これほど長い間この場所で祈り続けてきたのでしょうか。
その答えは、神社の歴史と、ここに祀られる龍神の物語の中にあります。
この記事では、丹生川上神社上社の歴史やご利益、御朱印、アクセス、駐車場までをまとめて紹介します。

丹生川上神社上社は、奈良県吉野郡川上村に鎮座する神社です。御祭神は、龍神である高龗大神(たかおかみのおおかみ)です。
高龗神をお祀りする神社は、全国に約1,600社あるといわれています。丹生川上神社上社は、その総本宮にあたります。
公式サイトでは「水と雨を掌る天空の社」と紹介されています。社殿は大滝ダムのダム湖「おおたき龍神湖」を見下ろす高台にあり、まさに天空の社と呼ぶにふさわしい場所です。
なお、丹生川上神社には上社・中社・下社の三社があります。
| 神社 | 所在地と御祭神 |
|---|---|
| 上社 | 川上村/高龗神(山の峰の龍神) |
| 中社 | 東吉野村/罔象女神(水の女神) |
| 下社 | 下市町/闇龗神(谷底の龍神) |
三社はいずれも水の神様をお祀りしています。では、なぜ同じ名前の神社が三つもあるのでしょうか。その答えは、長く複雑な歴史の中にあります。
丹生川上の地が初めて歴史に登場するのは『日本書紀』です。
初代・神武天皇が大和の平定を目指していた時のことです。天皇は、厳瓮(いつへ)という神聖な土器を作り、丹生の川上へ登りました。そして天の神・地の神を祀ったと記されています。
つまりこの地は、国が始まる頃から神々を祀る聖域だったのです。
神社の創建は、天武天皇の白鳳4年(675年)と伝えられます。
この時、次のような神のお告げ(神宣)があったそうです。
「人の声が聞こえない吉野の深山、丹生川上に宮を建てて祀れば、天下のために恵みの雨を降らせ、長雨を止めよう」
このお告げによって社殿が建てられました。2025年(令和7年)には、創祀1350年という節目を迎えています。
農業を国の基礎としてきた日本にとって、雨は命そのものでした。奈良時代から室町時代にかけて、朝廷は数十回も使者を送り、雨乞いや雨止めを祈願しています。
平安時代の法令集『延喜式』では、特に霊験が高い「名神大社」とされました。さらに、朝廷が特別に重んじた「二十二社」の一つにも数えられています。
朝廷が祈願する時には、決まりがありました。
黒は雨雲、白は晴れ空をあらわしていたのでしょう。やがて、生きた馬の代わりに馬の絵を奉納する風習が広まったといわれています。これが現在の「絵馬」の始まりと伝えられています。
拝殿の中には、今も白毛と黒毛の馬を描いた絵馬が掲げられています。参拝の際はぜひ探してみてください。
また、吉野に行宮(あんぐう=仮の御所)を置いた後醍醐天皇も、この社に寄せて歌を詠んだとされます。
「この里は 丹生の川上ほど近し 祈らば晴れよ 五月雨の空」
長雨に悩む里の人々を思い、晴れを願った歌です。
これほど重んじられた神社ですが、応仁の乱(1467年)の後に転機が訪れます。朝廷からの奉幣(ほうへい=供え物を捧げること)が途絶え、神社は衰えていきました。
そしてついには、本来の社地がどこなのか分からなくなってしまったのです。
明治以降、国による調査が進められました。その結果、下社(明治4年)、上社(明治29年)、中社(大正11年)の三社が、それぞれ官幣大社に列せられました。
三社が存在するのは、このような歴史があるためです。どの社も「丹生の川上」の水の神様を今に伝える大切なお社です。

上社の物語は、ここで終わりません。
昭和34年の伊勢湾台風で、吉野川流域は大きな被害を受けました。これをきっかけに大滝ダムの建設が決まります。そして上社の旧境内は、ダム湖に沈むことになりました。
上社は「天下万民の幸福のため」として、平成10年(1998年)3月に現在の高台へ遷座しました。
遷座の後、奈良県立橿原考古学研究所が旧境内を発掘調査しました。この「宮の平遺跡」の調査で、驚くべきことが分かります。
石棒の一本は、地面に直立した状態で見つかったそうです。
『延喜式』に名が載る古社を全面的に発掘したのは、これが初めての例でした。同じ場所で、縄文の人々も古代の朝廷も祈りを捧げていたことになります。
現在の境内から湖を見下ろすと、その底に4,000年分の祈りが眠っているのです。では、それほど長く祈りを集めてきた神様とは、どのような存在なのでしょうか。
高龗大神は、水と雨を司る龍神です。「龗(おかみ)」という字は、雨を降らせる龍をあらわすとされています。
神話では、伊弉諾尊(いざなぎのみこと)が火の神・迦具土神(かぐつちのかみ)を斬った時に生まれた神様です。火の神から水の神が生まれるという、不思議な物語ですね。
公式サイトでは、次のように説明されています。
山の上で雨雲を呼ぶ龍と、谷で水を集める龍。上社と下社を両方お参りすると、吉野の水の流れをたどる旅になります。

本殿には、主祭神とともに次の神様も祀られています。
| 区分 | 御祭神 |
|---|---|
| 相殿神 | 大山祇神(おおやまつみのかみ)・大雷神(おおいかづちのかみ) |
| 山之神社 | 大山祇神 |
| 水神社 | 弥津波能売神(みつはのめのかみ) |
| 恵比須社 | 大国主神・事代主神 |
| 愛宕社 | 火武須毘神(ほむすひのかみ) |
| 川上社 | 天武天皇 |
末社の川上社には、創建の時代の天皇である天武天皇がお祀りされています。神社の始まりとつながる、興味深いお社です。
高龗大神は、すべての命を支える「水」を司る神様です。古くから雨を降らせ、また止める神として篤く信仰されてきました。
そのため、水の恵みに関わる農業や暮らしの守り神として親しまれています。公式サイトで受け付けているご祈祷には、次のような願い事があります。
龍神は、運気の流れを良くする存在として信仰されることもあります。人生の流れを変えたい時に参拝する人も多いのは、そのためかもしれません。
ご利益を知ったところで、次は境内で必ず見ておきたいポイントを紹介します。
現在の本殿は、平成10年の遷座にあわせて造営されたものです。新しい社殿ですが、凛とした美しさがあります。
境内からは、大滝ダムのダム湖「おおたき龍神湖」と吉野の山々を見渡せます。新緑や紅葉の季節は、特に景色が鮮やかです。
雨乞いの黒毛馬と、雨止めの白毛馬を描いた絵馬です。絵馬の由来を知ってから見ると、千年以上前の祈りの姿が浮かんできます。
拝殿には「神雨天災(しんうてんさい)」の額も掲げられています。神の雨が降り注ぎ、恵みを施すという意味だそうです。
拝殿の右脇には、樹齢600年になる杉のご神木があります。見上げるほどの姿に、思わず背筋が伸びます。
拝殿の中には、ご神木の胎内から出てきたという霊石が置かれています。木の御霊と石の御霊を合わせ持つとされる、珍しい石です。
また、鎌倉時代の旧本殿の礎石も拝殿内に残されています。湖に沈んだ旧境内から、今の社へと受け継がれた歴史の証です。
境内には、湖に沈んだ元宮の方角を拝む遥拝所があると紹介されています。かつての社に思いを馳せながら手を合わせてみてください。
また、水源の湧き水を引いたご神水をいただけることもあるそうです。
丹生川上神社上社の御朱印は、社務所(授与所)でいただけます。受付時間は9:00〜16:30です。
御朱印の種類や初穂料は、時期によって変わる場合があります。参拝時に授与所で確認してください。
丹生川上神社では、三社をめぐる参拝が人気です。上社では、次のような三社めぐり用の授与品が用意されています。
| 授与品 | 初穂料 |
|---|---|
| 三社めぐり御守 | 1,000円 |
| 三社めぐり朱印和紙(吉野和紙) | 1,000円 |
| 三社めぐり福神矢 | 300円 |
三社は車で移動する距離にあります。一日で回る場合は、時間に余裕を持った計画がおすすめです。
龍神総本宮らしく、龍や水にちなんだお守りが充実しています。
| 授与品 | 初穂料 |
|---|---|
| 龍神守 | 500円 |
| 龍守 | 500円 |
| 水守 | 1,000円 |
| 天空星守 | 1,000円 |
| 運気上昇水晶守 | 1,000円 |
| 丹生三霊守 | 1,500円 |
| 水神力御霊 | 3,000円(袋500円) |
| 水晶腕輪守(特別授与品) | 6,000円 |
| 雨乞晴乞絵馬 | 500円 |
| 交通安全守・交通安全木札守 | 各1,000円 |
| 交通安全ステッカー | 500円 |
| 神社大麻 | 1,000円 |
雨乞晴乞絵馬は、黒馬と白馬の伝統を感じられる上社ならではの授与品です。
上社には、少しうれしい仕組みがあります。
初穂料100円のおみくじで「凶」を引いた人だけに、「龍神の玉」というお守りが授与されるのです。
沈んだ気持ちはおみくじと一緒に境内へ結び、代わりに幸運のお守りを持ち帰る。そんな心づかいが感じられます。凶を引いたら、落ち込まずに授与所で声をかけてみてください。
ご祈祷は完全予約制です。初穂料は5,000円、または1万円以上です。
申し込みはメールかFAXで受け付けています。地元・川上村産の檜を使った御神札などが授与されます。郵送でのご祈祷にも対応しています。
季節ごとに多くの祭典が行われます。主な行事は次のとおりです。
| 時期 | 行事 |
|---|---|
| 1月1日 | 御神火拝戴祭・歳旦祭 |
| 1月14日 | 古神札焼納祭(どんど焼き) |
| 2月17日 | 祈年祭 |
| 3月15日以降の日曜 | 春季大祭(龍神祭) |
| 7月第一土曜 | 夏越大祓式・七夕燈籠祭 |
| 旧暦8月15日 | 観月祭 |
| 10月8日に近い日曜 | 例大祭 |
| 11月23日 | 新嘗祭 |
| 12月31日 | 大祓式・除夜祭 |
平成10年3月15日の遷座を記念する、春の大祭です。
茅の輪くぐりの後、数百個の燈籠に火が灯されます。願いを込めた短冊が揺れる中、闇夜に灯りが浮かぶ幻想的な神事です。
一年に一度の最も大切なお祭りです。神輿の渡御や奉納行事、餅撒きなどが行われ、境内がにぎわいます。
初詣の時期は、元旦の御神火拝戴祭から参拝できます。山間部のため、冬は路面の凍結に注意して出かけましょう。
公式サイトでは、次の所要時間が案内されています。
| 出発地 | 所要時間・ルート |
|---|---|
| 大阪方面 | 約2時間(阪和自動車道→三原JCT→南阪奈道路→国道169号線) |
| 京都市内 | 約3時間(国道24号線→橿原市→国道169号線) |
| 奈良市内 | 約2時間 |
| 橿原市内 | 約1時間 |
| 名古屋市内 | 約2時間50分(名阪国道針IC→国道369号線→国道166号線→国道169号線) |
国道169号線沿いの川上村役場や道の駅の近くから、高台へ上る道を進みます。
道幅が狭くカーブが続く区間もあるため、ゆっくり運転してください。
最寄り駅は、近鉄吉野線の大和上市駅です。駅からバスで川上村役場前へ向かい、そこから坂道を歩いて上ります。
バスの本数は多くありません。川上村の公式サイトで時刻表を確認してから出かけましょう。
境内のそばに、参拝者用の駐車場があります。
大きな行事の日は混み合う可能性があります。例大祭などに合わせて訪れる場合は、早めの到着が安心です。
川上村は、吉野川・紀の川の源流に位置する「水源地の村」です。村は740ヘクタールもの原生林を購入し、「水源地の森」として守り続けています。
神社とあわせて、水の恵みを感じるスポットをめぐってみましょう。
上社の旧境内が沈んだダム湖をつくる、大滝ダムです。防災ステーションでは、ダムの歴史や役割を学べます。
神社の遷座の背景を知ったうえで湖を眺めると、景色の見え方が変わります。
川上村の森と水の大切さを伝えるビジターセンターです。源流の自然について、分かりやすく学べます。
ものづくりに関わる作家の工房やギャラリーが集まる施設です。山あいの静かな時間を過ごせます。
三社めぐりをするなら、ぜひ中社と下社にも足を延ばしてください。中社は東吉野村、下社は下市町に鎮座しています。
川上村役場の隣にある道の駅です。参拝の前後に立ち寄りやすく、休憩やお土産探しに便利です。
道の駅のそばにある温泉ホテルです。参拝の後に温泉でゆっくりしたり、宿泊して三社めぐりをしたりするのもおすすめです。
山あいの村のため、飲食店の数は多くありません。ランチは道の駅周辺で計画しておくと安心です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名称 | 丹生川上神社上社(にうかわかみじんじゃかみしゃ) |
| 住所 | 〒639-3553 奈良県吉野郡川上村大字迫869-1 |
| 電話番号 | 0746-52-0733 |
| 参拝・授与時間 | 社務所(授与所)9:00〜16:30(年中無休) |
| 駐車場 | あり |
| アクセス | 車:大阪方面から約2時間、橿原市内から約1時間(国道169号線経由) 電車・バス:近鉄吉野線「大和上市駅」からバスで「川上村役場前」下車、徒歩 |
丹生川上神社上社は、水と雨を司る龍神・高龗大神をお祀りする龍神総本宮です。
湖を見下ろす境内に立つと、縄文の人々から古代の朝廷、そして今の私たちへと、同じ場所で祈りがつながってきたことを感じられます。
4,000年の祈りが眠る湖を、天空の社から眺めてみませんか。中社・下社とあわせた三社めぐりで、吉野の水の神様にご縁を結ぶ旅に出かけてみてください。